建設業許可に関する基礎知識や要件、手続きに関する情報です。
ご不明点があれば、お気軽にお問い合わせください。
建設業界の社会保険未加入問題について
国土交通省は、平成24年7月から建設業界の社会保険未加入対策を実施しており、平成29年以降は、建設業許可業者で加入義務のある事業者については、企業単位で100%、労働者単位では製造業と同程度(約90%)の加入率を目標に設定しています。
このページでは、他の産業に比べて加入率が低い建設業界の現状や社会保険未加入問題の背景、未加入が発覚してから強制適用、遡及徴収までの流れなどを解説しています。
目次
- 社会保険未加入問題の背景について
- 社会保険加入義務がある事業者について
- 社会保険未加入が招く問題点
- 社会保険加入率の現状
- 社会保険未加入対策の具体的な内容について
- 一人親方の偽装請負など新たな問題点
- まとめ
-
社会保険未加入問題の背景について
国の建設投資額は、ピーク時である平成4年(84兆円)から約40%減少しています。
建設業者の受注競争は激しさを増し、元請業者は業務を受注するための過度なダンピングを行うようになりました。
元請の低価格での業務受注は、下請業者に対して法定福利費を含めない発注へと繋がり、下請業者は法定福利費を確保することが難しくなりました。
その結果、建設業界の社会保険加入率が他産業に比べて低い結果を招いています。
-
社会保険加入義務がある事業者について
国土交通省が行っている社会保険未加入対策において、社会保険とは「健康保険」「厚生年金保険」「雇用保険」を指しますが、これらに加入義務がある事業所は下記のとおりです。
【雇用保険】
- 適用除外となる者を除いて労働者を1人でも雇用していたら加入義務があります。
適用除外となる者は、1週の労働時間20時間未満の者、65歳以上で新規雇用された者、31日以上継続雇用の予定がない者、昼間学生等です。 - 法人で役員のみの場合:適用除外
- 個人で事業主のみの場合:適用除外。
【健康保険】
- 法人:加入義務あり
- 5人以上を使用する個人事業所:加入義務あり
- 5人未満を使用する個人事業所:加入義務なし
【厚生年金保険】
- 法人:加入義務あり
- 5人以上を使用する個人事業所:加入義務あり
- 5人未満を使用する個人事業所:加入義務なし
- 適用除外となる者を除いて労働者を1人でも雇用していたら加入義務があります。
-
社会保険未加入が招く問題点
建設業者の社会保険未加入は、下記の課題を招きます。
- 社会保険未整備という処遇の悪さから、将来の建設業界を支える存在となるべき若手技術者・労働者の確保が困難になる。その結果、高齢となった技能労働者の技能や技術が、後進に承継されず建設業界全体の衰退につながります。
- 現状においては、ルール通りにしっかり社会保険費用を納めている事業者が、未加入業者に比べて価格競争上不利な状況である。
-
社会保険加入率の現状
平成26年10月調査の公共事業労務費調査による社会保険加入率は下記のとおりです。
【雇用保険】
- 企業別:96%
- 労働者別:79%
【健康保険】
- 企業別:94%
- 労働者別:72%
【厚生年金】
- 企業別:94%
- 労働者別:69%
【3保険加入】
- 企業別:93%
- 労働者別:67%
国土交通省が行っている社会保険未加入対策が功を奏し、加入率は順調に上がっていますが、労働者別でみると約3割がまだ未加入ということになります。
これが民間工事の末端の下請業者となると、加入率はさらに下がります。
-
社会保険未加入対策の具体的な内容について
下記の(1)~(7)は、国土交通省が行っている未加入対策です。現在実施中のものから、今後実施予定のものも含めて記載しています。
(1)経営事項審査の減点幅を拡大
公共工事の入札参加に必要な経営事項審査において、審査項目の1つである社会性(W)について、それまで同一項目であった健康保険と厚生年金保険の加入の有無を、それぞれ1つの項目として分け、さらに「雇用保険」「健康保険」「厚生年金保険」の未加入の場合の減点幅を拡大しました。
【平成24年6月30日まで】
- 雇用保険未加入:-30点(P点換算-43点)
- 健康保険及び厚生年金未加入:-30点(P点換算-43点)
【平成24年7月1日以降】
- 雇用保険未加入:-40点(P点換算-57点)
- 健康保険未加入:-40点(P点換算-57点)
- 厚生年金保険未加入:-40点(P点換算-57点)
(2)新規・更新・業種追加申請時に社会保険加入状況の確認
建設業許可の新規申請、更新申請、業種追加申請時に、所定の様式(様式第二十号の三)への記載と確認書類により、加入状況を確認しています。
上記申請時に未加入が発覚した場合、文書による加入指導が行われます。なお、社会保険の加入の有無は建設業許可の要件ではないため、未加入を理由として不許可、許可の取消しがされるといったことはありません。
※更新申請は5年に1度のため、経営事項審査を受けていない未加入の建設業許可業者への加入指導は必然的に遅くなってしまいます。
これを踏まえて、2016年1月以降に更新期限が到来する未加入業者に対して、国土交通省は文書による加入指導を2015年秋に前倒して実施することになりました。
(3)加入指導、従わない場合は厚生労働省へ通報
建設業許可申請時のほか、立入検査時、駆け込みホットラインの通報等で社会保険未加入が発覚した場合、建設業許可部局(国土交通省、都道府県知事)は文書による加入指導を行います。
指定期日までに加入指導に従わない場合、厚生労働省保険担当部局へ通報されることになります。通報を受けた厚生労働省保険担当部局は未加入業者に対して加入指導(文書、電話、訪問)を行いますが、それでもなお指導に従わない場合、立入検査後、職権適用により2年間の社会保険料を遡及徴収が行われる可能性があります。さらに、建設業許可部局への通報が行われ、行政処分が行われます。
また、厚生労働省保険担当部局の立入検査を2度拒否するなど対応が悪質である場合は、刑事罰に発展する可能性があります。
※民間工事が多い中部地方は、関東、近畿地方とともに社会保険加入率が低く、加入指導率が高いです。さらに指導後の加入率も全国平均以下という芳しくないデータが出ています。
(4)下請業者が法定福利費を確保できるよう働きかけ
下請業者の社会保険未加入の状態を改善するには、社会保険料がしっかりと確保される必要があります。
専門工事業団体は、法定福利費の内訳が記載された標準見積書を作成し、下請業者はその標準見積書をしっかりと活用し元請業者に対して提出、元請業者のほうでも下請業者に対して標準見積書を活用するよう働きかけます。
※国土交通省では、法定福利費の内訳が記載された見積書の作成手順書を公開している。
なお、下請業者の見積書に法定福利費が明記されているのにも関わらず、元請業者がその金額分を差し引いて請負契約を行うことは建設業法違反になる可能性があります。
(5)未加入業者を入札から排除
平成26年8月1日以降の国土交通省直轄工事から、入札参加時に社会保険加入の有無が確認され、未加入の場合は工事から排除されます。
平成27年以降は、未加入業者は入札参加資格申請を行っても受理されなくなります。
(6)未加入の一次下請業者と契約した元請業者に制裁金
平成26年8月1日以降の国土交通省直轄工事から、下請金額3,000万円以上(建築一式工事の場合は4,500万円以上)の工事において、元請業者は社会保険未加入の下請業者(一次下請)と契約した場合、契約金額の10%を制裁金として課されることになっていましたが、平成27年8月1日以降の工事においては、この金額要件が撤廃されることになりました。
金額要件がなくなったことで、公共工事からの未加入業者排除はより徹底されることになります。
(7)未加入の作業員は建設現場への立入禁止(平成29年度以降)
平成29年度以降は、社会保険未加入の作業員は現場への立入を禁止し、発注者も未加入業者とは契約を結ばないようにと、未加入業者を建設業界から徹底的に排除する方針です。
-
一人親方の偽装請負など新たな問題点
社会保険未加入対策を進める上で新たな問題が出ています。
社会保険料の事業主負担分の支払いを嫌がる事業者が、社会保険料の支払いを免れるために、労働者として働く者を一人親方等個人事業主に移行させ、実質労働者であるにも関わらず請負契約という形をとっています。
このような行為は偽装請負として違法性があるため、安易に行うべきではありません。
※国税庁は、「大工、左官、とび職等」の一人親方等個人事業主の税務調査を実施しており、労働者性が強いと判断された場合は、雇用主とされるものに5年分の遡及徴収がされる可能性もあります。
-
まとめ
- 社会保険加入義務があるのに未加入であることは違法!
- 平成29年以降は、未加入業者・未加入労働者は、実質建設業界から排除される!
- 加入指導に従わない場合、遡及徴収や行政処分を受ける可能性がある!
- 社会保険料を免れるために、実態は労働者であるにも関わらず、一人親方として独立させ請負契約を結ぶのは偽装請負となる可能性がある!
なごの行政書士事務所では、建設業界に精通した社会保険労務士のご紹介も行っています。
社会保険未加入の建設業者様はお気軽にご相談ください。